カウントダウン
死ぬ事を考えていた僕は、処方された薬を飲まなかった。そのせいでますます気分は沈み、情緒不安定になっていた。
毎日会社に行く事だけを考えていた。歩みを止めれば死んでしまう。
休みの日は先輩の新しい店の準備に駆けつけた。決まって夜は焼き肉をおごって頂いたが、相変わらず味覚がおかしくて味がしなかった。僕は焼く事に専念する。
そんな中、先輩と個人の家に出張に行く事になる。道具とネタは先輩の店で用意するらしく、僕は約束の時間に包丁と白衣だけをもってタクシーで向かった。
船での僕の失態を聞いていた先輩の店のスタッフは、あからさまに僕を馬鹿にしていた。
年下で初対面の時は丁寧な対応をしていたスタッフが、なめた態度で僕に接してくる。陰口を聞こえる様に言い、何かヒソヒソと話しては、僕を見て笑っていた。
先輩までもが、きつく僕に当たってくる。
「ぼーっと突っ立てんじゃねーよ!」
出張先でもそれは続いた。僕は全く使えなかった。お客様の楽しそうなパーティーと自分との差に落ち込み、吐きそうだった。先輩の怒号は最後まで続き、あきれられてため息をつかれた。
「今まで一緒に出張に行った中で一番使えない。最低だよ。」
吐き捨てる様に言われた。
言い返す事も悔しさも沸いてこなかった。圧倒的に役立たずだった。思考停止状態。
「目が死んでいる。ロボットみてーなやつだな。お前なにがしたいの?」
帰りのタクシーの中で先輩が問う。
僕はそこではじめて心療内科に通っていること、もうこれ以上仕事をする事が困難である事を告げた。
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